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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)3035号 判決 1977年12月23日

原告

株式会社ミロク経理

右代表者

鈴木啓允

右訴訟代理人

和泉芳朗

中村築守

右輔佐人弁理士

山本清

被告

SSビジネス・フオームコンサルタントこと

酒井進

右訴訟代理人

藤本博光

外二名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告が本件伝票を製造販売していること、被告が昭和四六年一一月頃から少なくとも昭和四九年一〇月末頃までの間、別紙第二目録記載の伝票(ただし、同目録中19、24、29、30、31のものを除く。)を製造販売していたことは、当事者間に争いがない。

二原告は、本件伝票の形態を構成する諸要素のうち、(1)伝票の上辺に余白を置くことなく第一行欄が設けられていること、(2)伝票の左右両側に等間隔の整理穴が設けられていることの二点が不正競争防止法第一条第一項第一号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に該当すると主張する。

思うに、商品の形態自体は、その商品の目的とする機態をよりよく発揮させあるいはその美感を高める等の見地から選択されるものであつて、本来、商品の出所を表示することを目的とするものではないけれども、二次的に出所表示の機能を備えることもありうべく、この場合には商品の形態自体が特定人の商品たることを示す表示に該当すると解すべきである。

しかしながら、商品の形態がその技術の機能に由来する必然的な結果であるときは、例外として右形態につき不正競争防止法による保護を求めることは許されないものといわなければばならない。けだし、この場合に商品の形態を同法により保護するとすれば、商品にその形態をとらせた技術そのものを一種の永久権として特定人に独占させるという結果を容認せざるをえず、技術的思想を保護するための特許権及び実用新案権に存続期間の制限を設けた法意を没却することになり、不合理だからである。

三ところで、本件伝票が原告の主張する前記(1)、(2)の形態を備えていることは当事者間に争いがないから、次に、これらが本件伝票の技術的機能に由来する必然的な結果であるか否かにつき判断する。

本件伝票が、起票した複写伝票を勘定科目別に段落的にバインダーにフアイルすることにより、記帳会計の帳簿と同様の一覧性と転記を必要としない伝票会計の正確性、迅速性とを兼ね備えているものであること、本件伝票が前記(1)の形態を備えている結果、伝票を一覧形式にフアイルしたとき、伝票相互の行間に余白を生ずることなく各行が連続して表示されること、本件伝票の前記(2)の形態は伝票を一覧形式にフアイルするためのもので、その整理穴は一穴のずれが一行のずれとなるよう設定されているとともに伝票の両側に設けられているため、伝票をバインダーの左右いずれの側にもフアイルすることは、いずれも当事者間に争いがなく、右の事実と<証拠>を総合すれば、本件伝票が前記(1)の形態を採つているのは、伝票を一覧形式にフアイルしたとき、伝票相互の行間はいわゆる「マ」すなわち余白が介在するのを避けるためであり、また前記(2)の形態を採つているのは、伝票を段落的にすなわち整理穴一つのずれが一行のずれに対応するように設計された伝票を適当な穴数だけずらしてフアイルし、しかも伝票の左側の穴を使つてバインダーの右側に、伝票の右側の穴を使つてバインダーの左側にフアイルするというように両ページ見開きの一覧式帳簿とするためであることが認められ、この認定に反する証拠はない。

以上の事実に基づき考察を進めることとし、まず、前記(1)の形態についてみるに、この形態は、伝票を一覧形式にフアイルした場合に伝票相互の行間に余白を生ずることなく各行が連続して表示されるようにすることを目的とするものであるが、このような技術的機能を本件伝票に持たせるためには、伝票の上辺に余白を置くことなく第一行欄を設けるという前記(1)の形態を採るほかなく、したがつて、この形態は右の技術的機能に由来する必然的な結果というべきである。

次に、前記(2)の形態についてみるに、この形態は、被告の指摘するように、伝票の「左右両側」に「等間隔」の整理穴を設けたというのであり、さらに、右の「等間隔」であるとの点は、左右いずれか一方の側に設けられた整理穴相互の間隔が他方の側の整理穴相互の間隔と対応して相等しく、かつ同じ側に設けられた整理穴相互の間隔もすべて等しいというものであることは明らかである。

そして、伝票の「左右両側」に前者の意味で「等間隔」の整理を設けたとの点は、本件伝票に、同一のバインダーの左右いずれの側にもフアイルすることができるという技術的機能を持たせたことに由来する必然的な結果というべきである。なぜならば、伝票を同一のバインダーの左右いずれの側にもフアイルするためには、左右の整理穴相互の間隔はともにそのバインダーのとじ具の歯の間隔に一致しなければならないからである。

また、整理穴が後者の意味で「等間隔」であるとの点は、伝票をバインダーに段落的にフアイルするという技術的機能を本件伝票に持たせたことに由来する必然的な結果というべきである。なぜならば、伝票を段落的にフアイルするというのは、前述のとおり、一穴のずれが一行のずれに対応するよう設計された伝票を適当な穴数だけずらしてフアイルするということであつて、そのためには伝票の同じ側に設けられた整理穴相互の間隔はすべて等しくなければならないからである。

以上に説示したとおり、前記(1)、(2)の形態は専ら本件伝票の技術的機能に由来するものであるから、前記の理由により原告は右の形態につき不正競争防止法による保護を受けえないものである。

四よつて、原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(秋吉稔弘 佐久間重吉 安倉孝弘)

第一目録

伝票会計に使用する伝票であつて、第一目録別紙のごとく、伝票の上辺に余白を置くことなく第一行欄が設けられ、月日、摘要、金額その他が記入でき、かつ伝票の左右両側に一穴のずれが一行のずれとなるよう設定された等間隔のバインダー用整理穴を有し、これら伝票を段落的に編綴すれば一覧式会計用帳簿の形態となる様式の各種伝票及びこれら伝票が連続的に連結する各種伝票

<別紙省略>

第二目録

伝票会計用に使用する伝票であつて、第二目録別紙のごとく、伝票の上辺に余白を置くことなく第一行欄が設けられ、月日、摘要、金額その他が記入でき、かつ伝票の左右両側に一穴のずれが一行のずれとなるよう設定された等間隔のバインダー用整理穴を有し、これら伝票を段落的に編綴すれば一覧式会計用帳簿の形態となる様式の各種伝票及びこれら伝票が連続的に連結する各種伝票

<別紙省略>

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